はじめに
「ブランディングする」「リブランディングしたい」「製品コンセプトやブランドをちゃんと決めたい」と言われたときに、何から考えればよいのか分からなかった。
ロゴやWebサイトを変える話なのか、製品の提供価値を決める話なのか、営業での伝え方を変える話なのか。同じ「ブランディング」という言葉でも、話している範囲が人によって違いそうに思える。
次に同じ相談を受けたときのために、考え始めるポイントと最初に作るアウトプットの型をまとめる。
ブランドは顧客側に形成されるもの
まず、ブランド、ブランディング、リブランディングという3つの言葉を自分なりに整理する。
- ブランド:顧客や市場の中に形成されている、その製品や会社に対する認識
- ブランディング:意図した認識が形成されるように、さまざまな顧客接点を一貫させる活動
- リブランディング:形成したい認識を改めて定義し、既存の顧客接点をその定義に合わせて再設計する活動
この整理は、ISOによるブランドの解説、OpenStaxのBranding and Brand Development、HubSpotのWhat Is Rebranding?を参考にした。表現はそれぞれ異なるが、ブランドを見た目だけでなく、顧客の認識や体験、企業側の働きかけとの関係で捉えている。
企業側が決められるのは、どのように認知されたいかという意図と、それを伝えるための顧客接点である。ブランドそのものではなく、ブランドが形成される条件を設計する、と考えるとしっくりくる。
まず「なぜ今やるのか」を1枚にする
リブランディングを始めるなら、いきなりロゴやコピーの案を作るのではなく、まず「なぜ今やるのか」を1枚にまとめたい。
例えば、きっかけとしては次のようなものがありそうである。
- 新製品を出すため、これまでとは異なる市場や顧客に向き合う
- 製品の実態が変わった一方で、以前のイメージが残っている
- 競合との違いが伝わらず、営業で比較されたときに選ばれにくくなった
- 部門によって製品の説明が異なり、顧客に伝わる価値がばらついている
重要なのは「ブランドを新しくしたい」で終わらず、現在の認識をどう変え、その結果として事業や顧客に何を起こしたいのかまで言語化することだと思う。
現在の認識 → 起きている変化と問題 → 目指す認識 → 実現したい変化の順に書くと整理しやすそうである。
現在の認識について社内の想像だけで書かず、顧客インタビュー、商談、失注理由、問い合わせ、レビューなどの情報を根拠にできるとよさそうである。
ブランドを定義するときに考えたい6つの要素
「どのように認知されたいか」を具体化するときは、少なくとも次の6つを考えたい。
- 誰に向けたブランドなのか
- 価値を最も強く必要とする顧客は誰か
- 何者として認知されたいか
- 顧客の頭の中で、どの市場カテゴリーや選択肢に置かれたいか
- 何を約束するか
- 製品やサービスを通じて、顧客にどのような価値を提供するか
- なぜ信じられるか
- 実績、データ、技術、仕組み、事例など、約束を裏付けるものは何か
- どう感じてもらいたいか
- 安心、期待、親しみ、先進性など、接した人にどのような感情を持ってほしいか
- どう振る舞うか
- その認識を作るために、製品や組織が一貫して行うこと、行わないことは何か
ロゴや色を決める前にこの部分が言語化されていれば、デザインやコピーを選ぶときにも「どちらがブランドらしいか」を判断しやすくなる。
ポジショニングから考える
6つの要素のうち、特に「誰に」「何者として」「どのような価値を提供するか」をつなぐのがポジショニングだと理解した。
April DunfordのA Quickstart Guide to Positioningでは、ポジショニングを構成する要素として次の5つが挙げられている。
- 競合・代替手段
- このサービスがなければ、顧客は何をするのか
- 競合製品だけでなく、手作業、外注、何もしないことも含めて考える
- 独自の能力・特徴
- 代替手段にはなく、自社にはあるものは何か
- 顧客価値
- その違いによって、顧客に何が起きるのか
- 例えば「AIを搭載している」は特徴であり、「確認作業が減る」が顧客価値になる
- 最も価値を感じる顧客
- その価値を強く必要とするのは誰か
- 市場カテゴリー
- 何のサービスとして理解されると、その価値が最も伝わるか
- 新しい言葉を作らず、既知のカテゴリーに置いたほうが伝わりやすい場合もある
これらを一文にまとめるなら、次のような型が使えそうである。
[対象顧客] が [解決したい課題] を解決するための [市場カテゴリー]。
[競合・代替手段] とは異なり、[独自の能力] によって [顧客価値] を実現する。
その根拠は [実績・データ・技術・事例] である。この文自体を広告コピーとして使う必要はない。チームが「誰に、何を、なぜ自分たちが提供できるのか」を同じ内容で説明するための、内部向けの土台として使うものだと思う。
ブランドを顧客接点に展開する
ブランドの定義やポジショニング文を作っても、それだけで顧客の認識が変わるわけではない。
例えばSaaSであれば、企業側が設計できる顧客接点には次のようなものがある。
- ロゴ、色、写真などのビジュアル
- 製品名、Webサイト、広告などの言葉
- 営業資料、デモ、料金体系、契約手続き
- オンボーディング、UI、エラー時の案内
- カスタマーサクセス、問い合わせ対応
「簡単に使える」と約束しているのに導入に何週間もかかったり、「伴走する」と伝えているのに問い合わせへの返事が遅かったりすれば、コピーよりも実際の体験のほうが強くブランドを作る。
ブランディングは見た目を整えるだけでなく、これらの体験を一貫させる活動なのだと思う。
最初のアウトプットとして使えそうな型
ここまでの内容を、相談されたときに最初に作る1枚としてまとめる。
# ブランド方針
## なぜ今やるのか
- きっかけ:
- 現在起きている問題:
- 現在の認識:
- 目指す認識:
- 認識が変わることで実現したいこと:
## 誰に向けたブランドか
- 対象顧客:
- その顧客が置かれている状況:
- その顧客が強く必要としている価値:
## ポジショニング
- 競合・代替手段:
- 独自の能力・特徴:
- その違いが生む顧客価値:
- 市場カテゴリー:
- ポジショニング文:
## ブランドの約束
- 顧客に約束すること:
- それを信じられる根拠:
- 感じてもらいたいこと:
- 一貫して行うこと:
- 行わないこと:
## 顧客接点への展開
- Webサイト・広告:
- 営業・デモ:
- プロダクト・オンボーディング:
- 契約・料金:
- サポート・障害対応:最初からすべての欄をきれいに埋める必要はない。事実として分かっていることと、これから検証する仮説を分けて書くだけでも、次に調べることや話を聞く相手が見えやすくなる。
まとめ
ブランディングと言われたら、まず「なぜ今やるのか」と「どの認識をどう変えたいのか」を明らかにする。そこから、誰に、何者として、何を約束するのかを定め、各顧客接点へ展開していく。
今のところ、ブランディングとは顧客の中に形成される認識を、一貫した体験を通じて作っていくことだと捉えると分かりやすい。